まだまだ知られざるドイツの歴史探訪の旅。偉大な芸術がうみだされた現場や歴史の舞台となった場所を訪ね歩くことで、紙の上に留まらない活きた文化を醸成してゆく地道な旅の記録です


by fachwerkstrasse

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© 2010-2011 M.UNO

2005年よりドイツ在住
NRW→Thüringen→Hessen
と放浪の旅を経て、現在は
ドイツ・ハイデルベルク大学 
会議通訳修士課程 在籍中

日本独文学会幽霊会員
日本ヘルマン・ヘッセ友の会/
研究会幽霊会員


[翻訳] 

ヘルマン・ヘッセ:インドから
(ヘルマン・ヘッセ全集第7巻)
臨川書店(京都)

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新年のカンタータ ③ BWV 41

1724年初夏から1725年の復活祭にかけては、いわゆる「コラール・カンタータの年」とよばれる期間に相当する。この間に40曲以上のコラール・カンタータが作曲されたが、完全に一纏まりのものとして完結はしていないと考えられている。「イエスよ、今こそ讃えられよ」は1725年の初演ということで、これもこのチクルスの所産。

カンタータ詩句は、新年のものとしてオーソドックスな作りとなっているが、作者は不明。
ここでもある新年用のコラールから引用がなされている。最初と終わりの詩句はそこからそのまま採られ、
間のレチタティーヴォやアリアには元の詩句から自由に創作されている。

まず冒頭と終曲に関しては、ヨハン・ヘルマンの1593年のコラールとみて間違いない。
14行という、いささか珍しい長めの詩形となっている。
終曲のコラールの詩句も同じものから、そのまま採られている。

しかしヘルマンのコラールが、ひとまとまりの詩行であるのに対して、そこからカンタータのために
レチタティーヴォとアリアをそれぞれ2連づつ作成しなくてはならず、長さも一致しないという厄介な問題が
生じたに違いない。しかし作詞者はこの課題をうまくやり過ごし、元のコラールの内容に沿った詩句を
見事に書きあげた。

次に中間部、まずアルトのレチタティーヴォ部分に相当する元のヘルマンのコラールの詩句はわずか2行、
ルカの福音書のイエスの割礼と命名の部分から採られたものである。これを受けてカンタータの詩句は
ヨハネの福音書の冒頭や詩篇の139編などを参考に作られた。

続くテノールのアリアでは、ヘルマンのコラールを元に信仰を維持することの重要さを訴えかけている。
これにバスのレティタティーヴォと合唱が続く。終曲のコラールはヘルマンのコラールの3番目と4番目の
詩句から採られている。

一方でバッハの自筆譜には「新年」ではなく「キリスト割礼蔡のための」と書かれている。
しかもこの自筆譜は、様々な紆余曲折を経ている。長男のウィルヘルム・フリーデマンが相続した後、
17世紀のうちにザクセンの個人蔵となり、1833年に歌手でバッハの収集家であったフランツ・ハウザーに
売却され、1904年にベルリンの国立図書館に寄贈された。

ところが数年後に何者かが、自筆譜の最後の3枚の用紙を抜き取ってしまった。そのうち一枚は第一次大戦後にザールフェルトの郷土博物館に寄贈され、現在も同博物館所蔵となっている。2枚目は紛失したかに思われたが、70年代の終わりに偶然アイゼナハで発見され、ベルリンに返却された。

1913年まで王立図書館が入っていた、ベルリンのベーベル広場(旧オペラ広場)の建物。外観から「洋服ダンス」の愛称で親しまれていた。現在はベルリン・フンボルト大学の方学部が入っており、図書館の方は1914年にウンター・デン・リンデン通りを挟んで斜め向かいにある現在の建物に移転した。
新年のカンタータ ③ BWV 41_b0206899_9174573.jpg

_________[Berlin Bebelplatz 2006 © DFS All Rights Reserved]_________


こうした盗難劇は、かつては珍しくなかったようだが、長らく誰にも気づかれずにいたのは、バッハの自筆譜が大掛かりなものとなっていたこともあろう。特に冒頭の曲は213小説にものぼる後にも先にもない規模の長さで、しかも祝典的な性格を出すのに不可欠なトランペットとティンパニが加わったことで、書き込みにも膨大なスペースを要したのだ。他のコラールカンタータと同様、コラールの旋律が一行ごとに息長く歌われ、この曲の場合にはソプラノがそのほとんどを担っているが、他の声部がこの主要声部に沿って対位法的に配置されてういる。そして全体に渡ってまとまったモティーフに基づいた器楽合奏がからんでくる。

この器楽合奏はトランペットとティンパニで華やかな演奏効果を狙っているのだが、まずは合唱の開始とともに木管と弦楽器が先導し、コラールの各行が謳われるごとに、その合間を縫うように奏でられる。前半では、同じ音型でまず1行目から4行目、次に5行目から8行目のコラールが歌われる。

後半に入ると、まず「私達は静かに年を越した」の個所では、静寂の雰囲気に合わせて、拍子もテンポもガラッと変わる。こういうドラマティックな表現では、バッハ時代を先取りしていると言ってもいいだろう。すぐに活気を取り戻し、続く残りの4行ではモテット風に処理されている。ここでは器楽合奏は合唱を補強する役割を担っている。カンタータ全体をシンメトリックにまとめるためにバッハは終曲にも同様の配置を採用し、同じコラール旋律を用いている。

ブリリアントのバッハ全集にも収録されている、ロイスィンク+オランダバッハコレギウムと少年合唱団による、冒頭曲の音源はこちら

中間部では各声部のソロが交代で登場することになるわけが、最初のソプラノのアリアでは神に対する純朴な祈りの気持ちが優美な舞踏風の音楽で表現され、パストラーレ風の器楽伴奏彩りを添えている。声楽とオーボエ三本に通奏低音が密に折り重なっていて、実に心地よい響きだ。

次に短いアルトのレチタティーヴォに続いてテノールのアリアに移る。ここでは技巧的なヴィオロンチェロ・ピッコロによるソロが際立つ。陰影の付いた音色が、縦横無尽な音型で、敬虔な内容の詩句の歌唱にからみついている。アーノンクールの録音がこちらにある。

新年のカンタータ ③ BWV 41_b0206899_9225777.jpg
ちなみに、ヴィオロンチェロ・ピッコロとは、バロック音楽の文献資料でたびたび言及されている楽器だが、一時は完全に忘れ去られており、現在再び注目されて復興や録音が進められている。数年前には、寺神戸亮によるバッハの無伴奏チェロ組曲の録音が話題となった。(←試聴つき:実際こうして聴くと、従来のチェロの演奏のように、無理して汗水たらしながらガーガー引き倒している感じがしない、とても無理のない響き)やはり、バロック音楽はまだまだ楽器や演奏形態そのものに研究の余地があるということだ。たかだが150年ほどの「伝統」に、聴き手も弾き手も安穏としていてはいけない。



続くバスのレチタティーヴォでは、途中に祈祷文の1節が織り込まれている。終曲のコラールは冒頭とほぼ同じ流れになっている。すなわち、コラールの各行ごとにまず金管楽器とティンパニによって、カンタータ冒頭のテーマに基づくファンファーレが入る。最後の4行については、まず最初の2行のみ一時的に三拍子になり、冒頭曲と同様に最後の2行が繰り返され、最後にトランペットとティンパニによるファンファーレが応答して曲を締めくくる。晴れやかな信念の幕開けにふさわしい、素晴らしい曲である。


[Un violoncello piccolo a cinque corde © GNU Free Documentation License]______
by fachwerkstrasse | 2011-01-06 09:13 | 教会暦 カンタータ